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八日目の蝉
評価:
角田 光代
中央公論新社
コメント:不倫相手の子供を誘拐した希和子。罪の重さを感じながらも、薫との幸せな日々を重ねていく。その旅の行く先に、ふたりが見るものとは。

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希和子は不倫相手の子を誘拐し、「薫」と名づけて自分の子供として育てようとする。
事件が新聞に載り、間もなく希和子は自分が容疑者として追われていることを知り、各地を転々としながら薫とふたり逃亡生活を送る。
病気になったら病院にもかかれない。
もしこのまま逃げおおせても、薫を学校にも通わせることができない・・
そんな現実的な不安も、希和子は薫への愛情に埋めてごまかしてしまう。
そして4年の月日が経ち、希和子は誘拐犯として逮捕されることとなる。

後半3分の1の物語は、誘拐された子供・恵里菜が大学生になってからの話へと変わる。
「事件」以後のひび割れた生活は、時を重ねても「ふつう」の暮らしに戻ることはなかった。
「なんで私だったの?」恵里菜は何度も問いかける。
「八日目の蝉が目にするもの」をその答えとして、この物語はしめくくられる。

ストーリーが面白い。
赤ん坊の頃に誘拐した子供を自分の子として育てる。ありそうでいて、なかなかなかった話だと思う。
これだけ話題になったこともあって、流れに勢いがありあっという間に読みきった。
主人公が誘拐犯であるにも関わらず、その純粋な母性と子供への愛情によって、いつしか希和子が逃げ切れますように、と、見つかりそうになってははらはらしてしまう。
そして後半の恵里菜の自分の狂わされた人生との葛藤と、自分に架せられた運命を背負って生きてゆこうと立ちあがるまでを描く物語にはいっても、その流れは止まることなく最後まで突き進み、恵里菜と希和子とのかすかな交差という鮮やかなラストを迎えて物語りは終わりをみる。

確かに面白い。
のだが、優秀作、といった印象。
とても綺麗にまとまっているから、逆にそれが物足りないというか。
個人的好みとして。



20:40 | か行(角田光代) | comments(0) | trackbacks(0)
夕子ちゃんの近道
評価:
長嶋 有
講談社
コメント:フラココ屋で働く主人公と、店長、常連の瑞江さん、大家さんの娘たちとのやりとりを描く、ゆったりと温かい物語。

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長嶋有はイイ!と改めて思った。
改めてというか、今まではなんだか気になるなー読んじゃうなーという感じだったのが、本作でイイ!と感ずるにいたった。

イイ!というのは、最近わかったことだけれど、今の自分の読書の仕方や嗜好にマッチしている、ということだと思う。
昔は、この世には「面白い本」と「面白くない本」の2つしか存在しないと思っていたけれど、それはとんだ間違いであった。
物語を面白いと言うことや、誰かにすすめることは、ほんとうに難しいなと思う。


主人公は働くことやら、生きることやら、そういうのが全部面倒くさくなって、フラココ屋の2階に引っ越してきた。フラココ屋に集まるのは、フラココ屋でバイトをする主人公と、店長の幹夫、常連の瑞江さんと大家の2人の娘たち。
瑞江さんは旦那さんと別居中。35になった彼女は子供が欲しくて離婚に踏み切れない。
娘たちの両親は離婚していて、妹の夕子は学校の先生と付き合っていたが妊娠してしまう。
主人公の過去を含め、フラココ屋に集まる彼らには何かしら背負った荷物があるのだが、物語は一貫してゆるやかで、ほんのりと温かい。

主人公の「背景のような」キャラクターに引っ張られ、フラココ屋住民たちと近づきすぎるわけでもなく近づいていくのが楽しい。
そこは日本人的な、「口に出さない優しさ」と「口に出す優しさ」とで満たされている気がする。

傷を抱えているのは分かっているし、それは言っても言わなくてもいいのだし、
ただ口には出さないけど心配しているという
温かい物語。
22:46 | な行(中嶋有) | comments(0) | trackbacks(0)
未見坂
評価:
堀江 敏幸
新潮社
コメント:未だ見ぬ坂。未見坂。知らない場所なのに懐かしい。そんな不思議な町での、ショートストーリーズ。

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ジャケ買い。

未見坂という一見ゆるやかそうに見えて登ってみると実は結構きつい。
そんな坂がある町で暮らす人々の、はたまたなんらかの理由でこの町にやってきた人たちの、人生の数ページを切り抜いたような物語。

作者はとても生真面目な人なのではないか、という印象。
言葉を大事に使っていて、そこが好印象ではあるのだが、読んでいてまだまだ私には少し疲れるところもある。
そして読み終えて1日たった今覚えているのは、「余韻を残さない終わりが逆に余韻になって困った」という感想。
物語の終末というのは、しかるべくして終末に向かっていくというか、文体や雰囲気からして、ああゴールに向かっていっているなあ、という雰囲気を受け取って、自分の中でもその物語に対する別れの準備をしながら最後のページへと向かっていくことが多い。
短編といえど、最後の数行くらいには、そういった感じを受けることが多いし、そうでなくても読み終えた後に、うん、そうか、そういう終わりか。というのを飲み込めることが多いのだけれど。

この本に関してはなんだろう、全く終わった感じを出さない。
長編の始まりの1篇が終わりましたよ、という所で物語が終わり、また違う物語が始まってしまう。
え、心の準備が。と思う。

そういうことを受けて今思えば、この本は「町」を描いたものなのだなあということだ。
町は始まりも終わりも曖昧で、どこを切り取ってもなんらかの誰かの物語があって、しかしそれ自体は町という主人公のほんの一部分でしかない。

そしてこの町はど田舎でもなければ、都会というわけでもない。
それなのにどこか懐かしい、未見であるのに帰りたくなるような町なのだ。

地味だけど、いい本。





22:26 | は行(堀江敏幸) | comments(0) | trackbacks(0)
向日葵の咲かない夏
評価:
道尾 秀介
新潮社
コメント:物語中に撒き散らされた、小説ならではの伏線。最後までサプライズを与えて続けてくれる作品。怖いです。

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小学4年の夏、学校を休んだS君にプリントを届けにいった僕は、S君の首吊り死体を確かに見た。
しかし、先生や警察がS君の家を訪れたとき、死体は跡形もなく消えていたのだ―。
そしてS君は生まれ変わり、蜘蛛の姿になって僕のもとへやってきた。
彼は、自分を殺した犯人を告発して欲しいと僕に訴えかけてきて・・・・。


最初はつっこみどころが多すぎて、湧き上がる疑問に何の解説もいれずに黙々と物語を進めるものだから、もしかしたらどうしようもない話か?なんて思っていたのですが。

ほんとうにすみませんでした。私が間違ってました。。

全てが緻密に計算されて作られているという印象。
そしてそれがまた、怖い。
そしてこのトリック(?)が、小説でなければ成しえないというのが、また嬉しいところでもある。
映画化にもドラマ化にも絶対にならない。
つまり読書を楽しめる人でなければ楽しめない作品なのだ。

小説を原作とした映画は多いが、原作の話をする際に、映画しか観ていない人から「あ〜あれね」という感じで話されるのが時々もどかしく思うことがある。
話の筋はだいたい一緒なんだけど!違うから!何がっていえないけど、なんか空気とか違うから!!
という気持ち。
映画を観ただけで原作を読んだつもりになってほしくないという気持ち。
別物だもの。

脱線しましたが。
あまりに上手く出来ていたため、本当に怖くて、他の作品を読むかどうかはかなり躊躇するところ。
他の作品がどういうスタンスなのかは分からないけど、少なくとも本作はホラー好きな人にオススメ。

22:42 | ま行(道夫秀介) | comments(0) | trackbacks(0)
黒猫
評価:
エドガー・アラン・ポー
集英社
コメント:怖い。が、ひきつけられる。独特な世界。

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代表作「黒猫」を含む短編集。

怖い。怖いのだが、それだけではない何かがある。
うまく感じ取れなかったが、深い、と思う。
作者は抽象的なものを物語という形の主役にすることがうまいひとだと感じた。
それが何を示していたのかを、物語の最後で示唆してくれるのもまた面白い。
22:34 | エドガー・アラン・ポー(海外) | comments(0) | trackbacks(0)

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