<< March 2011 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | - | -
虐殺器官
評価:
伊藤 計劃
早川書房
コメント:ある男の行く先々では、どんな平和な国も内戦になり、大量虐殺が起こる・・・。謎の男、ジョン・ポールを追う米軍大尉、クラヴィス・シェパードが知る真実と、衝撃の結末とは。

JUGEMテーマ:読書
JUGEMテーマ:小説全般
 
デビュー作、「虐殺器官」をとうとう読み終えてしまった。
これでもうこの作者の長編小説を読む機会は2度とないのだということが口惜しい。

「ハーモニー」と同じく、これでもかというほどに詳細に計画されつくした世界観。
ある意味では、背景描写や、設定説明、そして物語においていわんとする「哲学」に比重を置きすぎていて、主人公の行動や知覚に関する記述が少なすぎるかな、という印象もある。
しかし逆にここまで「世界観と哲学を語る」ことに執着し、突っ走り、このページ数をさくというところに、この作者の個性や面白みがあるのかもしれない。
本来ならこういった書き方をする作者が、今後どのような作品を描いていくのかという楽しみも生まれるのだけれど、今回はここまでで彼への評価というものが決してしまうわけだ。
とても残念。
きっとこれからもっともっとすごい文豪へと化けていったような気がする。

ちょっと怖い題名と表紙なのだが、ホラーというわけではないので安心して手にとってほしい。
これは「ハーモニー」と同じく、人間としての生き方に言及した物語だ。
人という生き物の原子的な部分を引っ張りあげ、それを近未来の科学の力によって操作し始めるとき、人は自我を見失ってしまうのかもしれないという恐れ。
病床にあった作者は、治療という名において自分自身が生来持って生まれた以上の力を体内に取り入れながら、どこからが自分で、どこからが自分ではなくなるのかを恐れ、その思いを物語りにつづったのではないだろうか。。なんていうのは邪推かな、すいません。


16:12 | あ行(伊藤計劃) | comments(0) | trackbacks(0)
ストロベリーナイト
評価:
誉田 哲也
光文社
コメント:今ノリにノッてる作者が描く、ハイスピード刑事ドラマ。

JUGEMテーマ:小説全般
JUGEMテーマ:読書
 
今や何を発表しても売れる作家の1人、誉田さん。
あまりの売れっぷりに買うのを辟易していたものの、やはりこれだけ売れると古本屋に並ぶのも早いぜ。
というわけで購入。

最初の10数ページを読み進めたあたりで、あら、これはハズレか。と思った。
(相変わらず上からですが、個人的好みを書いているだけですのでご了承くだされ)
読むのやめちゃおうかなーでも途中でやめるのもなー。
と思って読んでいたら、いつの間にか割りと楽しんで読み終えていたっていう。

ドラマ化されたらしいけど、まあそれも納得の内容。
というか最初から狙って書いているんだろう、多分。
こういう作品は小説でも映画でもドラマでもアニメでも、面白さが変わらない。

美人で若くて過去に傷を抱えた女刑事に、意地悪な言葉を投げつけつつも実は良い奴ベテラン刑事。
それを囲む、一見ヘラヘラしているようにみえて実は眼光の鋭い関西人と、主人公に思いを寄せているのがバレバレな真面目で不器用な若手。
それぞれがそれぞれのキャラを生かしながら事件に向かい、解決に至るまでの道のりは、実に計画的な感じがする。
癖がなく、かといって薄っぺらくもせず、幅広い層に受けそうな、なんていうか商業的に押し出しやすい作品。

いや、悪い意味ではなく。

(しつこいけど)個人的には新刊分のお金を出して買おうとは思わないが、シリーズ2作目「ソウルケイジ」を古本屋で見つけたら買うと思う。
18:53 | は行(誉田哲也) | comments(0) | trackbacks(0)
終末のフール
評価:
伊坂 幸太郎
集英社
コメント:8年後に隕石が落ちてくる。そんな宣告を受けた地球人。荒れ果てた世界の片隅の、小さな命の灯火を描いた物語。

JUGEMテーマ:読書
JUGEMテーマ:小説全般
 
地震後の読書復帰1作目がこれとは。悪趣味?
でもちょうど良かったなと思った。

終わってしまう世界を目の前に、あがいたりもがいたり諦めようとしたり。
大事な人を失って、未来を失って、それでもなお「今」生きている命は輝いているんだということを
この作品は語っていたから。

仙台のとあるマンションの、生き残りの住民たちに1人ずつスポットを当てながら話は進む。
各回の話を少しずつリンクさせながら。
ボクサーの人の話の回だったかな、
「今のあなたの生き方は、あと何年生きるつもりの生き方なんですか?」
というセリフが心に残った。
このキャラクターは、明日死ぬとしても、1年後でも、8年後でも、50年後でも、生き方を変えない。
それで良いという生き方をしている人だった。
ちょうシブイ!

重すぎず、軽すぎず。とても読みやすい作品だと思います。
22:23 | あ行(伊坂幸太郎) | comments(0) | trackbacks(0)
ミスター・ヴァーティゴ
評価:
ポール オースター
新潮社
コメント:師匠の教えに導かれ、空を飛べるようになった少年の、まるまる70年間を描く物語。

JUGEMテーマ:小説全般
JUGEMテーマ:読書
 
これは最高に面白い!
久々の(?)星5つ文句なしです。

「13歳までに君に空を飛ばせてみせる。君には天賦の才がある」
というイェフーディを師匠にすることで、みなしごだったウォーリーの人生は変わった。
およそ耐えがたい修行にあけくれ、毛嫌いしていた「黒んぼ」と「インディアン」と共に生活していく中で、尖っていたウォーリーの心も溶けはじめる。
そして12歳のとき、彼は浮いた―。

浮遊術を使えるようになった少年、それを授けたあやしげな師匠。
これだけ聞くと児童文学、ハリーポッターのような波乱万丈のわくわくファンタジーのように思われるかもしれないが、断じて違う。
ひとりの人間の人生、生きること、死ぬこと、いかに生きるか、そしていかに死ぬかという、人の心の深く重たい部分にうったえかける物語だ。

いくつかのレヴューを拝見させてもらい、「悲劇的ラスト」「救いがない」という意見が多いのに驚いた。私はむしろ爽やかさと希望に満ちたラストだという感じを受けたからだ。
確かに「空を飛び、有名になって多くの人を楽しませる(そしてお金持ちにもなる)」という当初の夢を考えれば、彼の人生は「堕落していった」と形容できるのかもしれない。
しかしどうだろう。
むしろ晩年の彼はしごく「普通」の人生を歩んでいるだけだ。
あまりに輝かしい過去があったがためにその日々は色褪せて見えるが、一生のうちに、その他の日々を取るに足らぬものに見せる程の経験を出来たことというのは、むしろ素晴らしい稀有なことなのではないだろうか。
そして最終的に彼はそのことを受け入れることができた。過去を誇らしく思うことができた。
時間はかかったかもしれないが、人生70年目にして彼はいきいきと輝いているように見える。

ラストの文章がたまらなく好きだ。
この終わり方、彼のせりふを「素敵だ」と思うために、これまでページをめくってきたのだと信じられるほどに。
取るに足らないと思う自分にも、色んなしがらみにまみれた「自分」を取り去った奥の奥に、空を飛ぶことにも匹敵する力が眠っているのかもしれないと思わせてくれる、素敵な物語でした。



00:03 | 海外(ポール・オースター) | comments(0) | trackbacks(0)
最後の瞬間のすごく大きな変化
評価:
グレイス・ペイリー
文藝春秋
コメント:40年の間に出版したたった3冊の本で、アメリカ文学界に名を残したグレイス・ペイリーの短編集。

JUGEMテーマ:読書
JUGEMテーマ:小説全般
 
はっきり言って難解なので私には分からなかった。
文学的が「すぎる」という印象。
文学をするのに文学的過ぎるって、自分で感じててなんじゃそりゃと思ったが。

彼女の本を翻訳すると決めたとき、アメリカ人に「あの癖のある文章が日本語に訳されるなんて、信じられないね」と言われた、と訳者村上春樹があとがきで述べているし。

作者さんは詩も書いているらしいので、文章もなんとなく詩的な感じ。
普通の物語と思っていつものペースで読み進めてしまって、気がつくと話の流れについていけなくて慌てて前のページに戻る、ということを何度も繰り返しつつ読んだので、けっこう時間がかかった。

でもなんとなく「短編の醍醐味」っていうのが、こういうものなのかなあー、というのを感じられた気がする。
22:51 | 海外(グレイス・ペイリー) | comments(0) | trackbacks(0)

にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ