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評価:
森 絵都
文藝春秋
コメント:直木賞受賞作。多才、ではなく多彩、という言葉が似合う。人がひとりひとり、生きるうえで大切にしようと思っていることと、それを大切にすることの難しさや矛盾を、6つの違った形で示してくれた作品。
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以前に読んだ「カラフル」のイメージとだいぶ違った。
こんなのも書けるんだ、と正直驚かされた。
第135回直木賞受賞。
●●●目録●●●
○器を探して
人気料理家のアシスタントの主人公が、恋人にプロポーズされるはずだったクリスマスの日に美濃焼の器を買ってくるように頼まれる。
選びたくない複数のことからどれかを選ばなくてはならなくなったとき、本当の自分が否応なしに出てくるという現実。
○犬の散歩
犬のボランティアをするために水商売をしている主人公。
ボランティア、というものに一歩踏み出せない私は、そして多くのひともたぶん、怖いのだと思う。
足を踏み入れようとする現実が、自分の力で変えられることが無に等しいと分かっているから。
自分の無力さに苦しむくらいなら、見なかったことにして心の外にしめだしたほうが楽だから。
犬のボランティア、というものを選び取り、無我夢中でそれに向かう主人公を羨ましく思った。
○守護神
大学のレポートをただで肩代わりしてくれるという伝説の女に救いを求めて彼女を探し回る主人公。
うーん、これはあんまり面白くなかったかな。
○鐘の音
仏像の修復師が、とある仏像に心を奪われてしまう。
もっと美しい姿にしたいという気持ちと、不完全だとしても元の姿に修復しろという師匠の言葉に悩む主人公。
器用で誰にでも好かれて生きていくのと、不器用で自分の世界を頑固に守るのと、
どちらが良いかなんてことはわからない。
どちらも互いに互いを羨ましがり、そうであっても自分の生き方を変えることもできない。
どんな生き方をしても、幸せも苦しみも、人それぞれ違う形でやってくる、ってことかな。
○ジェネレーションX
仕事のミスで、若造と一緒に取引先に謝りにいかなくてはならなくなった主人公。
遅刻はするわ、車内では始終携帯でしゃべってるわで初めは気に食わなかったのだが、野球という共通点を得て、徐々に主人公は自分の青春時代を思い出し懐かしむようになり・・・。
自分は今は中途半端な年代だけど、中学生や高校生を見て、やっぱり「若いなあ」と思う。
老婆心から駄目駄目、と思うこともあれば、純粋さやひたむきさを眩しく思うこともある。
親父だって時には無茶しちゃうんだぜ、という素敵な話。
○風に舞いあがるビニールシート
国連難民うんちゃら機関で働く、専門職の男と事務職の女が結婚する話。
一般的な幸せ、とかってものは、もしかしたら存在しているのかもしれないけど、でも結局自分が「それってちょっと違う」「こうしたい、こうしてることが幸せ」と思ってしまったのなら、他人がどれだけ否定しようが可哀想な人と嘆こうが、それが真実なのだ。
私も惑わされたくないな、と思った。
いっこいっこ書いてたら疲れた;