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まほろ駅前多田便利軒

評価:
三浦 しをん
文藝春秋
コメント:生まれ育った町、まほろ市駅前で便利屋をしていた多田は、偶然高校時代の同級生の行天と出会う。帰る場所がないという行天は多田の事務所に転がりこみ、やがて大きな存在となっていく。行天が失いかけた小指に幸せの行方を映し出す、三浦しをん秀逸の作品。
JUGEMテーマ:小説全般
JUGEMテーマ:読書
 

さすが直木賞!

一個もけちをつけられないくらい、いい作品でした。

ぶっきらぼうだけど心根が優しくて他人をほっとけない性格の多田。
「ザ・変人」、一見何も考えていなさそうに見えて、実は物事の真実を
的確に見抜く力のある行天。

便利屋としてひとつひとつの事件を2人で解決していく過程で
交わされるやりとりは漫才を見ているようで楽しい。

便利屋の顧客として現れるのは、
親の愛を感じられない子供。
友達を守ろうとした少女。
子犬を欲しがる娼婦の女。
赤ん坊のときに取り違えられた青年。
どの町の駅前にも、ひとりは存在していそうな登場人物たち。

この物語の中に一貫として描かれるのは、愛と幸せの混乱。
現代では「愛」が恥ずかしいことのように言われ、
離婚率も増え、多くの人が浮気もしていて、子供たちはより愛されていないと
悩んでいる。
私はこの物語は、親に愛されなかった人たちへのメッセージであるような
気がした。

まだチャンスはあるんだ、と。
愛されなくても、愛するチャンスはある。
愛することに失敗したとしても、
自分が冷たい人間になってしまったと感じても、
何度でも心は温めなおすことが出来るのだと。

そしてそれを、行天の小指にたくしたというのが
三浦さんの偉大なるゆえんであるような気がした。


19:49 | ま行(三浦しをん) | comments(0) | trackbacks(0)
雪のひとひら

評価:
ポール ギャリコ
新潮社
コメント:生まれ、苦しみや幸せを経験し、そしていつか誰しもが天に召される。偉大なるこの世界に生まれたちっぽけな自分が、この世に生を受けた意味とはなんなのか。命あるもの全ての人生の縮図を、雪のひとひらに託して物語は進んでゆく。
JUGEMテーマ:読書
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まさに、人生の縮図を描いた作品。
主人公が「雪のひとひら」という風に、一見風変わりではあるが、
私たち人間が感じる雪のひとひら、また雨のひとしずくのちっぽけさは
宇宙という大きな生命体のもとに消しされられてしまう。

ある日生まれた雪のひとひらは、やがて川の一部となり、
そこで人生の伴侶と出会い子供を設ける。
ひとりではないことの幸福感を知り、それゆえ
伴侶の死によって耐え難い孤独というものも知ることになる。

人生の危機を乗り越え、また楽しみも味わい、
立派にそだてあげた子供たちもその手から離れて、
彼女はゆっくりと死へと向かってゆく。


死んでゆく命に生まれる意味はあるのか。

そして一体誰がこの命を生み、また死へと導くのか。



彼女は人生を通してこの問いを投げかけ続け、
死を目前にして前者の疑問にのみ答えを見出す。

「なぜ生まれ、生きてゆくのか」

それは人間であれば誰しもが一度はぶつかったことのある問いかけかもしれない。
私も一度は、この本に書かれたのと同じ答えを見出し、
そのために生きようとしたことがあったような気がする。

どの生命もが、ここに存在するものの全てが、それ自体では生きていけないように
出来ているから。

しかしそう直接的に、そして断定的に読者に答えを示す物語を
私は好まない。
さらに雪のひとひらが出した答えは、特に私にとって目新しいものではなく、
それゆえ読後も特にこの本から自分が受け取ったものは
ないように思えた。

しかし読者の中には、この答えを前に、新しい世界が開けたという人も
いるのかもしれない。
誰かが生きてゆくための手助けになることもあるのかもしれない。

特に専業主婦をしている女性は、手にとる価値があるかも。
20:06 | 海外(ポール・ギャリコ) | comments(0) | trackbacks(0)

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