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評価:
村上 春樹
講談社
(2006-09-16)
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文庫化しているのを発見して即買い。
だんとつの売れ筋1位。さすがです。
マリが深夜にファミレスにいると、姉エリの知り合いだという男・高橋に声をかけられる。
この物語が始まってから終わるまで、時間にして数時間。
アフターダークの物語は読者の頭の中に描かれることとなる。
いわばこの作品は序曲にすぎないのだろう。
と、考えればいつもの村上春樹らしくないこの物語の展開も納得がいくような気がする。
まず驚きなのは世代が若いこと。
春樹といえば30代男性が主人公、今となってはやや古くなってしまった時代を愛し
語る・・・というイメージだったのだけれど。
エリやマリは大学生、高橋はバンドマン、あと出てくる登場人物といえばラブホで働く人たちと、ヤクザ(?)と、中国人売春婦・・・
この物語の主人公は、おそらく「私たち」。
春樹のことだからきっとこの「私たち」に関しても何らかのハプニングを用意しているんだろうと思いきや。
もしかしたら、私たちはその言葉の通り私たちのことを指しているのかもしれない。
不思議な小説。
何も起きていないといえば何も起きていない。
だけど確実にこの数時間で変化が起きた。
人生の中にそんな夜があるかもしれない。
誰もがそんな変化を体験しながら人生を生きているのかもしれない。
人に変化をもたらすのは、今までの春樹の物語のような
何か大きな出来事の中に放り込まれる時だけではなく、
誰かと普通に話しながら、心に響く言葉を聴く時なのかもしれない。
村上春樹の世界は誰にも解説できない。
彼の作品を、誰にも規定することはできない。
問題なのは彼がどのような意図で、何を伝えたくてその物語を書いたのかではなく
私たち一人ひとりがその作品から何を感じ取るかなのだ。
一体どうしたらそんな作品を書き続けられるのだろう。
アフターダークは、面白い!と手放しで褒められる作品では決してないと思う。
失敗作なのか?と疑ってしまうようなこともあると思う。
でもこれをものすごい傑作だ!と思うことも間違いではないと思う。
なんかそんなね、
不思議な作品だ。
幕開けの前の物語。