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評価:
小手鞠 るい
新潮社
コメント:「男らしいひと」と「優しいひと」。かもめは人生で2つの大きな恋をした。怖いほどの欲望をかもめという女に乗せて、泥の中を全速力で疾走する、そんな物語。
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今風の言葉で言えば「恋愛体質」の女、かもめ。
うーん、いや、そんな軽い言葉では表しきれないのだけれど。
「好き」という気持ちは、一見綺麗なもののように思えるけど、実はそうではないのだと思わせられる。
「好き」という気持ちに、プライドや優しさや常識や、そんな何かをたくさんくっつけて初めて「好き」は「きれいなもの」になれるんだなあ、と。
「男らしいひと」にプロポーズされたかもめはこう思う。
あなたは本当に、何もわかっていない。
責任とか、結婚とか、家庭とか。
わたしが欲しいのはそんな、得体の知れないものではないのだ。
わたしが欲しいのは、あなただ。
あなたの一部でありたい。同時に、全部でありたい。
あなたの触れるすべてのものに、わたしはなりたい。
たとえばあなたの涙腺からあふれる涙に、わたしはなりたい。
たとえばあなたの血管を、わたしは血液になって、流れたい。
あなたに溶けて、重なっていたい。
それがわたしにとって、愛するということ。
ちょっと通常では分かりかねる、むき出しになった愛という欲望。
と同時に、いくつかの恋を経験した人なら共感せざるを得ない、正直な欲望。
かもめは異常だと頭では分かっているのに、恋に溺れて泣いている彼女を見ると
抱きしめて頭をなでてあげたくなってしまう。責めきれないのは、どこか自分への後ろめたさを感じるから。
やはり恋愛小説を書かせたらピカイチなんじゃないかと思う。
詩的な表現にやられます。