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評価:
小手鞠 るい
新潮社
コメント:本屋で出会った花音と海晴。「また会える」と信じ、アメリカと日本という距離を越えて愛を育んでいたのだが、ある日突然彼からのメールが途絶え・・・。愛するということの美しさだけを抽出した、とても綺麗に澄んだ物語。
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「絵本をさがしています」
その一言で出会い、恋に落ちた花音と海晴。
最初の出会いはほんの数分で、その翌日に電話をし、
さらにその次の日にはアメリカに発つ海晴を送る空港で1万回のキスを。
なんていうスピード恋!
キューピッドも真っ青な展開。
現実的に考えれば、詐欺か遊び人かはたまた罰ゲームか。
万が一本気だったとして、出会って2日後に遠距離恋愛が始まったら
まあ数ヵ月後には気持ちも冷めてメールも尻つぼみに自然消滅が落ち・・・
なんだけどまあそんな普通の展開を小説にしたって仕方が無いわけで。
本当に真剣に恋に落ちた2人だということを受け止めれば、花音の気持ちを表す言葉の一文字一文字が胸に痛い。
人生の伴侶を探し当てた親友の「愛は狂おしいものではない」という言葉に考える。
悲しいことがあった日も、嬉しいことがあった日も、わたしは淋しくて、たまらなくなる。
追い求め、会いたいと焦がれ、そばにいて欲しいと願っている、こんなわたしの愛は―。
愛とは呼べない?
「アイシテル」とつぶやくたびに、心がわっと泣き出してしまいそうになる、こんな愛は。
そばにいればいいというものではない。そこに心がなければ。
だけど、そばにいなくてもいいなんてものではない。だってアイシテルから。
愛しているっていう気持ちを、叫びを、何度もろ過してほんの少しの濁りものぞいて
綺麗なグラスに注いで差し出されたような、そんな物語。