<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< タンノイのエジンバラ | TOP | そんなはずない >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | - | -
第五の山
評価:
パウロ コエーリョ
角川書店
コメント:時は紀元前9世紀。旧約聖書からつむぎだす、神のもとに生まれた人間の物語。人として生きるうえで誰しもが避けられない困難や苦悩をどう受け止め、乗り越えていけばいいのか。主人公とともに一歩一歩解決の道を探っていく旅路をたどるような一冊。

JUGEMテーマ:読書
JUGEMテーマ:小説全般
 
旧約聖書において、カリスマとも言える預言者のひとりであるエリヤ。(詳細はwikiか何かでどうぞ)
本書は彼が絶望し、そこから立ち上がるまでの過程を描く物語だ。

パウロ・コエーリョの作品を「宗教臭い」と倦厭している人がいるなら、とりあえず一度は何かしら読んでみたらいいんじゃない?とおススメする。「悪魔とプリン嬢」あたりが一番柔らかい入り口だろうか。

本書においても、訳者後書きにて「作者のコエーリョも、『聖書とか、キリスト教にとらわれず、再建の物語として読んでいただきたい』とメッセージを寄せています」との記述がされている。本当にその通りだと思うのだ。作者はモチーフを「キリスト教」にしているが、それは例えば「警察官」だとか「病院」を物語の背景に設定することの多い作者と、やっていることはなんらかわりがないことなのだ。

話はそれるが、無宗教の人が多い日本では仏教儒教以外の宗教に触れる機会があると、どうも戸惑ってしまう傾向にあるように思える。「宗教」というものを、どこか現実離れしていて嘘くさいもののように感じる。天国、地獄、世界創世、復活、輪廻・・・ いまいち信じられない。
しかし宗教というのは、実はそんな夢物語を全部信じろっていうことが主目的ではない。
宗教というのはそもそも、人が生き易く、そして死に易くするために生み出された道徳観、ルールブックのようなものなのではないだろうか。

とあるヨルダン人に、「イスラム教は体に悪いものを禁止している」という話を聞かされたことがある。
酒・煙草はなんとなく分かるが、豚って体に悪いの?食べてるけど大丈夫だよ?と言うと、いやいや豚は本当に体に悪いんだよ、と言われた。気になったので調べてみると、豚はやはり寄生虫感染や食中毒にかかる危険性が高いらしく、よくよく火を通さないと危険なもののようだ。
「他の生き物の排泄物などをも食べ、見境無く性行為をする動物(=豚)を多く食べる地域の人間には似たような傾向が見られる」などと、ちょっと行き過ぎか?というような記事も見られた。

ともかくも、22世紀の今でこそ問題は少なくなっただろうが、何千年も前の世界で豚肉を食すことが危険なことだと判断され禁止にいたったことは想像にたやすい。
イスラムが禁止している食べ物は豚肉だけではない。記述は「不浄なもの」と書かれているが、その実情は「不浄=食べると病気にかかる恐れのあるもの」ということなのだろう。

つまり何が言いたかったかというと、宗教というものは人がどう生きていけばいいかを示した教科書のようなものであり、例えその宗教を信仰していなかったとしても、そこから学べることは多い。そしてまさにパウロ・コエーリョはそれを物語という形にして実行している作者であり、モチーフはキリスト教であっても、無宗教の私たちにも何かしら得るものがある(と少なくとも私は感じている)ということである。

はい、だったら最初からそう言えってね。


というわけで今回は「再建」の物語。
天使の声が聞こえる預言者のエリヤは、指物師としてイスラエルで平和に暮らしていた。
しかしフェニキアから王に嫁いできたイザベルは、異教のバアル信仰をイスラエルに広めようと、預言者を次々と殺害し始めた。
エリヤは天使の声に導かれ、ザレパテという町に辿りつき、そこで暮らし始める。
再びの平和と愛を手にしたエリヤだったが、彼を襲ったのは愛するものを失う悲しみであった。
神はなぜ神の声に従ってきた自分にこのような仕打ちをするのか?神の意図が分からなくなったエリヤ。
天使の声を失って、彼は初めて自分の意思と力で歩み始め、やがて神が自分に試練を与えた本当の意味に気づいていく。


それは羊飼いの言葉に凝縮されているように感じた。
まず、「避けられないことは必ず起こる」ということを認めること。
それを克服するために、規律心・忍耐・希望を持つこと。
そして不満足な過去を忘れ、人生の新しい物語を信じること。

困難にぶつかったとき、人は様々な選択肢を選ぶ。
諦める人、逃げる人、立ち向かう人。
その人のそういう性質は、例え場所や状況が変わったとしても変わらないのだともこの物語は教える。

ここ数年、私はちょっとした「困難」を前にしていたと思う。
最近になってようやく過去を忘れることが出来つつある。
そしてこれからは希望を持ち、新しい物語を想像してそれを信じるという行為をしていかなければならない。
そういう意味で、とても励まされた1冊だ。
今この時に読めて良かったと感じる。









10:24 | 海外(パウロ・コエーリョ) | comments(0) | trackbacks(0)
スポンサーサイト
10:24 | - | - | -
COMMENTS
COMMENT?










TRACBACK URL
トラックバック機能は終了しました。

にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ