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評価:
瀬尾 まいこ
新潮社
コメント:「母さん、育夫は卵で産んだの」 親子の証はへその緒ではない。育夫がものすごい好きなんだからそれでいいじゃない、という母と、母さんはとりあえず僕のことがものすごく好きらしいからそれでいいか、と思う息子。夢物語なのかもしれない。それでも心温まる物語。
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あっけらかんとした母だ。
「キッチン」のオカマのお母さんのような、
「プール」の小林聡美のような、
「人のセックスを笑うな」の永作博美のような、
明るくさばさばとして物事を隠さない、子供をひとりの人間として扱う母。
でもそのぶんだけ、子供は子供らしくいられない。大人にならなくてはいけない辛さもあるだろう。
育夫は母の実の子供ではない。
父親もいない。
母には好きな人がいて、その人とキスをしてその先もしちゃってね、なんてことも逐一育夫に報告する。
そして赤裸々に自分が育夫をどれだけ愛してるかってことも、伝える。
そうして育夫は知る。
親子の絆は、掴みどころがなくてとても確かなもの。だいたい大切なものはみんなそうだ。
あまーい!!
と言われたら極上に甘い物語だ。
現実に育夫の立場だったらそんな風に親子の絆はへその緒じゃないぜ、かあちゃんに愛されてるからかあちゃんに実の子が出来ようがそんなの関係ないぜ、と思えるほど小学生は、中学生は大人だろうか。いやたとえ大学生でも、社会人だって無理なものは無理なんじゃないか。
・・・そうは思うものの、物語なんだから甘く素敵なお話にしたっていいじゃない、という気持ちもある。
なかなかにそう綺麗事ばかり信じてもいられない世界なのだから。
意図的に甘さを貫いているなら、著者はとても強い人なんだと思う。
7’s blood もなかなかに好きでした。
半分だけ血の繋がった姉と弟。
父の愛人の子、七生は母が刑務所に入ったため、七子の家に引き取られることになったのだが、母が体調を崩し入院することになったため、七子と七生の二人暮らしが始まる。
いつも人の顔色を窺い、常に「良い子」を演じる七生に苛々を募らせていた七子だったが、だんだんと七生が背負っているものが分かるようになり、二人で手を取り合って生きるようになる、という話。
「卵の緒」とは対照的に、血の繋がりを重要視した作品だ。
父も母もなくし、だけど半分でも血の繋がった存在が確かにこの世に存在するという事実に勇気をもらい、生きる糧としている。
なぜこの2つの作品を一つの本としてまとめたのか。
作者の意図するところはどこにあるのか。
どちらかひとつの主張に固執させることを避けたということなのだろうかな。