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評価:
池澤 夏樹
角川書店
コメント:生命のなまなましさを艶やかに描く、池澤夏樹の短編集。
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生命というものの根源について語る作品がつめこまれている。
それはときに愛という形であったり、天気であったり、人生や不思議な遺跡の中での出来事だったりするけれども。
特に最後の、「帰ってきた男」はお気に入り。
物語の主人公は、いつも傍観者である。
生命というもののの根源的なあり方としての生き方に魅了され、現代の競争主義的な社会に染まりきれず、かといって自然の中に身を投げ出すほど陶酔も出来ず、そこに迷いなく足を踏み入れる人の背中を見送っている。
自分はそうした主人公よりも(そして作者より)ずっとこちら側の生き方をしているし、片足すら踏み出す勇気はないのだが、しかしそれをどこか羨ましく魅力的なものとして捉える視線という意味では、とても共感できるのである。
おそらく彼らが生き物として正しい生き方をしているのだろうということは分かっていても、体が、頭が動かないのである。
どの短編も、その美しさを描き、南の島の暖かさを伝え、そうして最後はその中に身を投じることのできない一抹の哀愁が漂う。
・・・なんていうのは、あまりにも個人的な意見を反映しすぎたかなあ。
でもそう感じた。