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評価:
佐藤 亜紀
文藝春秋
(2001-06)
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「私の筆跡にやや乱れが見えるとしたら、
それはバルタザールが左手で飲み、私が右手で書いているからだ。」
ひとつの肉体に宿ったふたつの魂、メルヒオールとバルタザールの物語。
日本人が書いたとは思えない、訳された洋書かと思い違いをしてしまいそうな本。
それほど登場人物の言い回しとか、背景の描写とかが外国風、舞台の雰囲気にぴったり。
多重人格(メルヒオールとバルタザールはちょっと違うみたいだけど)の物語はたくさんあるけど、これはダントツに面白い。こういう設定をすると二重人格、というところにばっかり視点がいってしまいそうなものだけど、まずこの主人公たちは当然のことのようにそれを受け止め、狂人扱いされてもそれを隠そうとしないし。むしろ楽しそうにやっていて、お互いをすごく思いあってるのがいい。だからこそ視点はそこを抜け出して、愛とかしがらみとか、ともすれば政治とか、そういうところにもどんどん入っていける。
一人の体にはいった二人がどこへいっちゃうのか、気になって一気に読んじゃいました。