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評価:
乃南 アサ
新潮社
(1997-01)
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記憶喪失って、小説のよくあるネタのひとつなわけですが
なんとこの主人公は、3回も記憶喪失になります。
そんな設定あり?!
てのでびっくりしましたが、3つに分かれた過去を徐々に取り戻していく
ストーリーは、他の記憶喪失ものの小説とは一味違います。
その人をその人として成り立たせているものは何か?
という話で、記憶、というものをそのひとつとして挙げました。
主人公の婚約者は、2度目に主人公が記憶を失くしたあとに
出会ったわけですが、3度目に記憶を失くした主人公を前に
悩むわけです。
どっちだ−
どっちの千尋が本物なのだろうか−!
何もかもが暴かれた上で、俺に千尋の過去の全てを呑み込むことができるか?
何もなかったころの不安に打ち勝つことができるか?
これから、千尋はまだまだ違う女になっていくのかもしれないではないか。
俺に見せていた一年間こそ、本当の千尋とは似ても似つかない存在だったのかもしれない。
それが、今は分からない。
俺はいま、おそらく彼女以上に明日がくることを恐れている。
記憶、がなくなったとき自分はどんな自分になるのだろうか。
記憶を失う前に好きだったものを好み、嫌いだったものを嫌うだろうか?
記憶を失う前に自分のことを好きでいてくれた人は、後の自分も好きになってくれるだろうか?
知ってみたいけど、記憶を失ったら記憶を失う前の自分を知らないわけだから
知ることは出来ない。
ていうか記憶喪失って実際どれくらいの人が経験するんだろうね。
現実には聞いたこともないな。