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評価:
浅倉 卓弥
宝島社
(2003-01-08)
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事件に巻き込まれ指を失ったピアニストが、事件の生き残りである少女を引き取り面倒を見ることになったが、その少女は脳に障害を持っていた。しかしその少女にはピアノに対する天才的能力が備わっていた。
少女に嫉妬と愛情の両方を抱く主人公と、ただ純粋に生きる少女のやりとりで進められる前半部分はとても面白く一気に読み進めた。正直に言えば私はその後の展開として、自らピアノを弾くことをやめてしまった主人公とが少女との触れ合いの中で未来への希望を抱いていくようなものを想像していた。ありきたりかもしれないけど、それに至る過程をどうみせるかが作者の力量かな、とも思っていた。
けれどそれは見事に裏切られた。というのは私にとって悪い意味で、である。誰もが思うことであり、十分議論にもなったそうだが、東野圭吾著「秘密」と全く同じ展開が起こるのである。そのシーンで一気に冷めてしまった。あああああ、面白かったのに・・・と残念でならない。ネタがかぶったから、というわけでなく、それなら違う本をもう1冊書けよ、と思ってしまったのだ。
「秘密」と同じネタを使うならば、その後の展開にみられるように生と死、心について1冊を使って思う存分語ればいいではないか。ピアニストであった主人公が指を失ってからの人生、脳に障害を持ちながら言葉を必死に紡ぐ少女の人生は、そのネタが起こった時点で、ぽい、と宇宙にでも投げ捨てられた感じがしたのだ。
さすがにラストは「秘密」とは違う結末でしめくくられているが・・・。前半が良かっただけに残念でならない。なんか最近そういう本によくあたってる気がする;