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評価:
村上 春樹
新潮社
コメント:月が2つある世界、それを青豆は「1Q84」と名づけた。1Q84の世界で立て続けに起こる不可思議な出来事。その中で青豆は自分の存在の意味を見つけていく。ハードボイルド、そして揺ぎ無い、愛の物語。
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レビューはBOOK1前編に書いているが、全読後の感想になります。
面白すぎで6巻一気に読んでしまった。
若干後悔しているが、また今度ゆっくりと読み返したいと思う。
単行本が出版されたとき、1Q84を読んだ何人かの知り合いに感想を聞くと、
多くの答えは 「なんとういか、なんとも言えないけど村上春樹って感じ」 というものだった。
しかし実際に読んでみて、私は1Q84は今までの村上春樹作品とはだいぶカラーの違うものだという感じを受けた。
灰汁が丁寧にすくわれているというか。
出てくるキャラクターもそうだし、語り口調も新しい。文章は今までの何倍にも増して洗練されているし、選び出す単語のひとつひとつやその並べ方が凄すぎて読んでる最中に呻ってしまうほど。
これほどまでの人でもまだまだ成熟というものをしていくのだなあと驚かされる。
センスや才能というふつうだったらプラスの要素になる言葉が、1Q84でつむがれる言葉を前にするとひどく滑稽でまぬけで的外れな言葉に思える。
センスだけでこんな文章を作り出せるわけがないだろうがあほめ。という具合。
物語についての感想を語ることはなかなか出来ない。
語彙力も表現力も足りなさすぎる。
そして多くの謎は残されたままのように感じる。
なぜリトル・ピープルのことが文字になり世間に知らされてはならなかったのか。
そうなったことにより世界はどう変わったのか。
教団は声を聞くことで何をしていたのか?
青豆と天吾が降り立った新しい世界には、さきがけやタマルや、1Q84の世界の人々は存在するのか?したとして、1Q84の世界での出来事と青豆たちとの関係はどうなっているのか・・
読み終えても気になることはたくさんある。
もし続きがあったとしても、疲労を感じることなく読み続けられただろう。
しかし完結を迎えた、というところに、放置された謎は謎のままでいいものであり、答えはすでに提示されきったということなのだと思っている。
つまり、「説明が必要なことは、説明されても分からない」ということなのではないか。
個人的には愛の物語だと思っている。
天吾の父が天吾に言ったように、私という存在は「何ものでもない」。
「親の子供」という存在でもない。
私は私であって、それを決定するのは自分自身でしかありえない。
そうでさえあれば、自分が自分でいる限り、どの世界で生きていようとも、それが月や太陽がふたつある世界であろうとも、たいしたことではないということなのだろう。
だってもしかしたら、本当の世界には月はふたつ存在しているのかもしれないのだし。