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評価:
三浦 しをん
文藝春秋
コメント:生まれ育った町、まほろ市駅前で便利屋をしていた多田は、偶然高校時代の同級生の行天と出会う。帰る場所がないという行天は多田の事務所に転がりこみ、やがて大きな存在となっていく。行天が失いかけた小指に幸せの行方を映し出す、三浦しをん秀逸の作品。
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さすが直木賞!
一個もけちをつけられないくらい、いい作品でした。
ぶっきらぼうだけど心根が優しくて他人をほっとけない性格の多田。
「ザ・変人」、一見何も考えていなさそうに見えて、実は物事の真実を
的確に見抜く力のある行天。
便利屋としてひとつひとつの事件を2人で解決していく過程で
交わされるやりとりは漫才を見ているようで楽しい。
便利屋の顧客として現れるのは、
親の愛を感じられない子供。
友達を守ろうとした少女。
子犬を欲しがる娼婦の女。
赤ん坊のときに取り違えられた青年。
どの町の駅前にも、ひとりは存在していそうな登場人物たち。
この物語の中に一貫として描かれるのは、愛と幸せの混乱。
現代では「愛」が恥ずかしいことのように言われ、
離婚率も増え、多くの人が浮気もしていて、子供たちはより愛されていないと
悩んでいる。
私はこの物語は、親に愛されなかった人たちへのメッセージであるような
気がした。
まだチャンスはあるんだ、と。
愛されなくても、愛するチャンスはある。
愛することに失敗したとしても、
自分が冷たい人間になってしまったと感じても、
何度でも心は温めなおすことが出来るのだと。
そしてそれを、行天の小指にたくしたというのが
三浦さんの偉大なるゆえんであるような気がした。