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評価:
荻原 浩
光文社
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若年性アルツハイマーにかかってしまった、広告営業部長のお話。
神様のくれた数式、私の頭の中の消しゴム、等
記憶を失うというテーマは珍しいものではないです。
意地悪な言い方をすれば、記憶を失っていく、と認識しながら記憶を失うことは、多くの人の心に響きやすいテーマ。だってなにをどう考えたって、せつない。
だからこそ、それを作品にするときには、そのテーマに負けない要素がいると思うんです。
たとえ感動したとしても、だってそれをテーマにされちゃしょうがないよ、と思わせたら負けだと思うんですよね。映画とか特に小説だと。
映画だと俳優さん女優さんの力量によってだいぶかわってきたりすると思うんですけど、小説の場合ストーリー展開が大きく左右するので。
と、いう個人的な価値基準のせいで、こういうテーマの作品に対しては辛口です。
そういう意味で、本作は物足りなかったんじゃないかなという印象。
焼き物というサブストーリーをいれることで物語りに厚みをもたせてはいるものの、アルツハイマーの告知を受けてからの仕事場でのエピソード、妻の苦悩、娘への想い、などは、平凡すぎるほど平凡な印象。
この本ならでは!という楽しみがなかったのが残念です。
世界の中心で愛を叫ぶ、とか、恋空、とか、
流行ってはいるけれども、あれらの作品はテーマに頼ってるとしか思えない。
恋空みてないけどさ。死と生をあんなにストレートな形で表現する作品は、
それも映画にしちゃったらそりゃあ多くの人に感動と涙を与えると思います。
でもそれは、作品としてのオリジナリティやコダワリってものがしっかりしてないと、ただ力が足りていないので容易く大衆を感動させるテーマを選んだ、というようにしか思えない。だからこそ、そういうテーマを選ぶということは、逆に厳しい世界に足をつっこむことになることを覚悟の上でやらなきゃいけないのだと思いますね。
・・・と、なんだかすごく偉そうなので恥ずかしいですけど
まあ、たかだかイチ意見です。
テーマに流されて感動するのが嫌やねん。だってお話はアートだから。