|
評価:
沼田 まほかる
幻冬舎
コメント:人が狂える理由は、愛以外にないのかもしれない。
|
昔の彼・黒崎を忘れられない主人公の十和子は、寂しさから15歳年上の陣冶と暮らしている。
下品で貧相で下劣で卑屈で・・・激しい嫌悪感を陣冶に抱きながらも離れられない十和子だが、デパートの時計売り場の係長・水島と不倫関係に陥る。
その直後から水島の周りで不可解なことが立て続けに起こり、十和子は陣冶の仕業ではないかと疑う。
十和子を手放したくないあまりに、狂ってしまう陣冶。哀れな陣冶。
そしてラストに示される、衝撃的な愛の形。
沼田まほかるは怖い。
あ、と気がついたときにはもう底なし沼にずっぷりとはまっていて抜け出せなくなる。
本を閉じたあともしばらくはこの陰鬱とした気持ちから抜け出せそうにない。
沼田まほかるが差し出す愛の形は、ひどくおいびつな形に歪んで狂気じみている、にもかかわらず、普段は隠されている部分から「共感」をかすめとっていく。
沼田まほかるの本を「つまらない」「気持ち悪い」と放り出すことが出来るならば、それはまだまだ若いことの証か、よっぽどの幸せ者か、はたまたぶりっ子か。
彼女の本が売れているという事実になんだか胸をなでおろす思いだ。
全員、狂っている。
十和子も、陣冶も、黒崎も、水島も、姉の美鈴と、もしかしたらその夫の野々山も。
(唯一の光がカヨかもしれない。カヨが出てくるシーンだけが温かい光をはなっていて印象深い)
しかし、狂気を含まない愛など有り得るのだろうか、と思い、「愛は素晴らしい」などと声高に叫んだりしない作者のことが、イイナ、と思ってしまうのである。