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評価:
石持 浅海
光文社
コメント:トリックではなく、「心情」を突き詰めて真相を明かす、一風変わったミステリー。
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ダイビングでの遭難事故によって強い絆で結ばれることになった6人の仲間。
そのうちの1人、美月が青酸カリで自殺をした。
彼女の死に浮かび上がるいくつもの謎。
真相を確かめるべく、5人は推理を始める。
疑うことの出来る相手は5人の中の誰か。そして美月本人―。
限られた選択肢の中で、彼らはメロスを信じたセリヌンティウスのように最後まで友人を信じきることが出来るのか?
推理小説というわりに、与えられる状況証拠やヒントがあまりにも少ない。
全ては憶測の中で話が進み、出てくる謎もまた憶測と、「○○が××をするはずがない」という根拠のないことばかり。
しかしそれは警察の中では証拠不十分として見過ごされることであっても、お互いを信頼しあった仲間の間でなら、確固たる「証拠」として信用できるものなのである。
という、一般的な推理小説とは若干の線を隔した作品に仕上がっている。
個人的な推理の採点をすると、いつも通り、「ここがおかしい」という部分は割合最初の頃に気がついたものの、それがどう犯人(という呼び名はここでは正しくないのだが)の行動に結びつくのかというところまでには思い至らず。というかあんまり自分の頭で考える前に本を読み進めてしまうというね。
悪いパターン。
推理小説って、もちろんトリックが見事だとか、それを明かしていくまでの過程や伏線の作り方にも作者の力量って表れると思うんだけど、やっぱり「登場人物の魅力」っていうのが力を持ってくると思うんだ。
それが成功したものって絶対にシリーズ化するじゃない。
シャーロック・ホームズしかり。ガリレオしかり。
その点で本作はちょっと物足りないなあという印象。
誰にも感情移入できなかった。6人も登場人物がいたのに。残念。