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遠い山なみの光
評価:
カズオ イシグロ
早川書房
コメント:カズオ・イシグロのデビュー作。他作品にも見られる、ある種の郷愁や悲しみにふんわりと包まれた本作。死という強烈なイメージに引っ張られながらも、戦後という大きな時代の変わり目に生きる人々の苦しみと葛藤を描く物語。

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19:53 | 海外(カズオ・イシグロ) | comments(0) | trackbacks(0)
わたしを離さないで
評価:
カズオ・イシグロ
早川書房
コメント:忘れられないヘールシャムでの日々。そこには確かに輝く青春があった。例え自分がクローン人間で、いつか臓器提供の使命を果たす日がくるとしても。ひとりの「人間」の生を描く感動作。

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「日の名残り」を読んで、こちらのレビューを書いていないことに気づき再読。
再読にも関わらず話の先が全く読めず、新しい物語として再び楽しめたのだが
自身のオバカサン加減を喜ぶべきか悲しむべきか悩みどころ。

さて、物語は主人公のキャシーが介護人として「提供者」の世話をしているところから始まります。
幾度か繰り返される、姿の見えない言葉たち(「提供者」「介護人」「ヘールシャム出身」)に、一体どういうことなんだろう?という疑問が頭をかすめたら、もうこの物語の中に引き込まれています。
その先はキャシーの子供時代の回想禄から、少しずつ物語の設定が明るみにされていきます。

クローンという題材を扱いながら、ここまで3次元的な、なんと言えばいいんだろう、人間的な?物語を私は知らない。
しかし考えてみれば(こういう物語に出会えてこそ成し得た思考のわけだけど)、「もし自分が誰かのクローンとして生み出されていたら」ということを考え、その結果に苦しむのは、生来「普通の人間」として生み出された私たちだけの特徴である。
キャシー初めヘールシャムの施設で育った彼らにとって、自分たちが「外の世界の人間とは少し違う」ということは何かにつけて示唆され続けてきたことであり、自分が誰かのクローンであり、いつか臓器を提供してその結果死ぬということも、特別に不幸せなこととは思えないのだ。
そうならなくてすむ可能性を見ない限りは。

親友のルースとの、そして彼女の恋人であり自らの想い人であるトミーとの、ヘールシャムでの思い出をひとつひとつ宝箱から取り出していくようにキャシーは語る。
人には生まれながらに決められた「運命」というものが、確かにあるのだと思う。
それは「戦時中の国に生まれた」だとか、「犯罪者の子供に生まれた」だとか、
「臓器を提供しなければならない」ということだったり、「いつかは死ななければならない」
ということだったりするだろう。
だがそれは「自由がない」だとか、「かわいそう」という言葉などと同義になることは決してないのだ。


カズオ・イシグロの作品を2冊(プラス短編1作)読んで思ったのは、作者は登場人物に入り込むのが本当にうまいということだ。
本人でなければ出来ない思い込みや勘違いをさらりとやってのけるため、読んでいて違和感がなさすぎてその勘違いになかなか気がつくことが出来ない。
本作においても、物語の最後になって初めて、クローンではない人間がクローン人間をどう見つめてきたかを伝えられたときの衝撃は、まるで自分がクローン人間であったかのような新鮮さをもって感じられた。
共感、とは違う。
自分とキャシーの間に大きく隔てられたものがあるこそ、それでいてキャシーの気持ちに同調していたからこその、切なさが本を閉じた後に大きく広がってくる。


例えば今、寿命が300年の宇宙人が目の前に現れて、私の頬に手を触れて「かわいそうに」と泣いたとしたら。
私はなんとも思わないだろう。
私は齢80まで生きれば大満足よ、たとえそれ以下でも。
そう思って変わらない毎日を生きるだろう。
だがしかし、ある日地球人が1人1人いなくなっていって、短い寿命の生命が私だけになろうとしたら?
ものすごい寂しさに襲われて切望するだろう。
私を1人にしないで、please don't let me go,
 と。
18:03 | 海外(カズオ・イシグロ) | comments(0) | trackbacks(0)
日の名残り
評価:
カズオ イシグロ
早川書房
コメント:「品格」に重きをおき、最良の道を選び続けた執事の語り口から描かれる、古き時代の英国。そして彼自身が品格の中に隠し持った恋心。時が流れ、全てが今は夕焼けに照らされている。流石、としか良いようのないブッカー賞受賞作。

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とあるイギリスの名門の旧家に長年仕えていた1人の執事と共に物語りは進んでいく。
屋敷を買ったアメリカ人を新しい主人に迎えいれた執事・スティーブンスは、主人から休暇をとることを打診される。
そこで彼は昔共に働いていた女中頭のミス・ケントンからの手紙を思い起こし、彼女にまた女中として働いてくれるよう説得するため、旅に出ることを決意する。
道中で語られるのは、長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事であった父への尊敬、戦争の中邸宅で行われていた重要な会合の数々、そしてミス・ケントンとの思い出。


いかにも有能な執事らしく、慎ましやかな態度と口調で語られるそれらの物語は、読み進めているうちに、物語が極端にスティーブンスという人間の主観のみで構築されていることに気がつく。(これはもちろん作者の意図によって)
そして彼が、父の姿を追い、「品格」をもつことを彼の人生における最も重要な柱としたことによって、執事としてあまりに素晴らしく、そして人間としてあまりに不器用であることを知る。

普通の人ならば、いわゆる「オン」と「オフ」の自分がいる。
バリバリに仕事をしている人でも、家に帰れば戦闘服を脱いでパジャマになり、素顔の自分で過ごす時間がある。
けれど彼にはその時間が少しもない。
朝起きてから寝るまで、食事中もシャワーの時間も、ともすれば寝ている間でさえ、彼は「執事」なのである。

本作は英国で最高の賞と謳われるブッカー賞を受賞した作品だ。
それは伝統的な英国を描きながら美しく今日の英国を批判する、そんな風刺への評価があってのものだ。
しかしこれまた残念なことに、私のおつむさんではこのへんが良く理解できない。
イギリスの「古き良き時代」のことも、「今日のイギリスの状態」がどんなものかも、さっぱり分からない。
ついでに言えば第一次、第二次世界大戦におけるヨーロッパ各国の事情ですら、大学受験の勉強の知識から衰えていく一方なわけで。

そういうわけで私がこの本を評価(あくまで個人的好みという意味での)できるのは、せいぜい7、8割がいいところなのだけれども、それでもあえて言うと私はこの作品はとても素晴らしいものだと感じた。
そして上記のようなスティーブンスの生き方が、この作品全体に淡い影を落として非常に美しいものに仕上げている。

栄光の日々が終わろうとしているイギリスという国。
執事としての最盛期もすぎ、年齢も初老にさしかかったスティーブンス。
彼らの姿はまさに「日の名残り」、原題「The Remains of the Day」と重なって佇む。
明るく暖かかった昼間の太陽の光を名残り惜しんでも、その先に待ち受けるのは夜でしかない。

本作はこうしめくくるのだ。
「人生、楽しまなくちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ」

果たして旅から戻ったスティーブンスが、人生の夕暮れを楽しく過ごしてくれていることを願ってやまない。



22:24 | 海外(カズオ・イシグロ) | comments(0) | trackbacks(0)

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