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評価:
山崎 ナオコーラ
河出書房新社
コメント:カツラをかぶっている美容室の桂さんと、そこで働く従業員のエリと俺。等身大の人間模様を描いた作品。
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JUGEMテーマ:
小説全般一言で言えば、男女の友情はあるのかないのか?はい、あります。
という話。
高円寺に越してきた主人公はカツラ美容室別室で働くエリと出会う。
週末にひとりで過ごす寂しさとあいまってエリに微かな恋心を抱くのだが、タイミングが合わないうちにエリへの気持ちは風化していく。
そして最終的に主人公はこう悟るのだ。
男女の友情はある。
しかしそれは決して綺麗なものなんかではなく、親密感とエロとやきもちと依存心をミキサーにかけてつくるものだ、と。
悪くない。のだけれど、パンチが足りない。
「人のセックスを笑うな」は、ユリちゃんがすごく良かった。
映画と違って、ユリちゃんが美人でもなくスタイルも良くないおばさんで
それなのに中身が天然小悪魔系の可愛い子ちゃんなのがすごく良かった。
しかしあまりにこの本に出てくる彼らはふつうだ。
しいて言うなら、カツラを帽子のごとく身に着けている桂さんがユリちゃんの役割を果たすべきであったのだろうが、いかんせん出番が足りないように思えてくる。
もう少し桂さんにまつわる、何かもっと印象的なエピソードなり格言なりを盛り込んで欲しかったところ。
とは言え印象的な文章もいくつかある。
例えば、主人公が引っ越したばかりのアパートに戻る場面。
ダンボールの断面に出来ている穴の、ひとつひとつに寂しさが詰まっているのが見える。
夜中に、細長い虫のような寂しさが、その穴からニョロリと出てきそうだ。
仕事が忙しくなって残業ばかりの日々を送る主人公の気持ち。
しかし、会社を辞めて、上司や同僚と飯食うのを止め、友人とべたべた会うのを止めたら、どうなるか。
オレは他人によってなんとか自分の形を保てている。他人と会わないでいたら、オレはゲル状になるだろう。
桂さんとエリの喧嘩を見て主人公が考えること。
相手の心を覗くことは、相手の心を予想することとは違う。ただひたすら注意深く、全身を耳にして耳を澄ますのだ。答えは出さない。相手の心がわかることはないから。―中略―知らないということを深めたくて、心を覗くのだ。
ああ、分かるし、表現がいいなあと思う。言葉が丁寧で好きだ。
今後もナオコーラ作品に注目していきたい。