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評価:
湊 かなえ
双葉社
コメント:ある日のホームルームで女性教師が告白を始めた。その内容は、自分の娘がクラスの生徒に殺されたという衝撃的なものだった。錯綜する様々な関係者の思いと、教師が残したひとつの復讐―。「正しさ」が存在しない、ただそれぞれの告白を突きつけた問題作といえる。
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物語は、とある女性教師の衝撃の告白から幕をあける。
それは、自分の娘がクラスの生徒によって殺されたというものだった。
ホームルームで淡々と語られる、娘が殺されるまでのストーリー。
そして最後にさらなる衝撃を残して教師は教室を去る。
それは、「犯人の牛乳に、HIV感染者の血液を混ぜた」
というものだった。
物語は語り手を変えながら、物語を縦横に広げていく。
●注意● この先ネタバレがあります。
本を多く読んでいくと、「慣れ」「飽き」というものがやってくる。
とても良いな、と思って集め始めた作家でも
数冊、数十冊と読みすすめていくうちに、だんだん面白みが薄れていってしまうことがある。
初めて読む作家の本だったとしても、ああ、この設定は〜よくあるな、文体は〜に似ているな、
そう思うようになってくる。
本書が本屋大賞という、本を読みなれた人に選ばれる賞をとった理由が
なんとなく分かる。
少年犯罪というありふれた題材を使ったにも関わらず、全く目新しい展開をつむぎだしているからだ。
一番のイレギュラーさといえば、復讐を誓った被害者親族、つまりは女性教師が
復讐を果たしたにも関わらず、警察に逮捕されなかったという点にある。
被害者少年の心の闇を描き、家庭の事情を描き、普通であればそこで多少の同情を読者に感じさせつつも、でも犯罪は許されないことだから致し方ないといった感じで少年を逮捕させるなり自殺させるなりするのだが、
この女性教師はそんな少年の家庭の事情を知ったうえでさらなる復習劇を巻き起こす。
もうとことんなわけだ。
でも実際憎しみってそういうことになると思う。
そんなの言い訳にもならねえんだよ、と思う気持ちが誰にだってある。
でもそう言ったら自分が冷酷な人間になってしまうような気がするから
皆口をつぐむんだ。
少年Aも可哀想な子なんだね。
親にも責任があるんだよね。
でも被害者はもっと可哀想だから、仕方ないともいえないよね。
だから小説で加害者が死ぬとちょっとほっとする。
死ねばそういう問題はもう議論しなくて済むからだ。
私は常々そういう小説を「ずるい小説」と位置づけてきた。
もうそんな話は読み飽きたのだ。
本書はその位置づけからほんの少し進んだ―ずれたと言ったほうが正しいだろうか。
とても印象的な作品になっていると思う。
余談。
そろそろ漫画だけではなく小説でも、
殺人者(極悪)が捕まらずに終わる話とか
重い罪を犯したのに数年で出所した少年のその後の話とか
そういうもっとえぐくて現実的な話が読みたい。